大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 平成5年(行コ)31号 判決 1994年10月27日

控訴人 福永照章 ほか三名

被控訴人 福岡県収用委員会

代理人 大西勝滋 岡原勇 新徳継秋 ほか四名

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  主位的に

(一) 原判決を取り消す。

(二) 被控訴人が平成四年六月一二日付けでした4福収裁第二号、同三号及び同四号の各裁決(以下、併せて「本件各裁決」という。)を取り消す。

(三) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  予備的に

(一) 原判決を取り消す。

(二) 本件を福岡地方裁判所に差し戻す。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  控訴人らの請求原因

1  建設大臣は平成二年一一月二八日一級河川遠賀川水系遠賀川改修工事(右岸・福岡県嘉穂郡稲築町大字山野地内から同町大字鴨生地内まで)(以下、「本件事業」という。)を事業認定した上、本件事業に関し自ら起業者として平成三年八月二六日被控訴人に対し、同町山野字白門三二番八などの土地について三件の土地収用法(以下、単に「法」という。)三九条一項の収用裁決申請及び法四七条の二第三項の明渡裁決申立てをなし、これに対して被控訴人はいずれも平成四年六月一二日本件各裁決をなした。

2  4福収裁第二号は、同町山野字白門三二番八ほか三筆の土地について、起業者は辻田由喜年を所有者とするが、被控訴人は所有者は不明とするものの、辻田由喜年か控訴人らかのいずれかであると認定し、損失の補償を定めて右土地の収用及び明渡を認めたものであり、4福収裁第三号は、同所三二番三ほか二か所の土地について、被控訴人は起業者の申立てのとおり右三二番三ほか一か所の所有者を控訴人福永千鶴子とし、残りの一か所の所有者は不明で同控訴人か福岡県かのいずれかであると認定し、損失の補償を定めて右土地の収用及び明渡を認めた(控訴人福永千鶴子を除く控訴人らはいずれも関係人(物件所有者)と認められた。)ものであり、4福収裁第四号は、同所六六番二ほか一筆の土地について、被控訴人は起業者の申立てのとおり所有者は不明で辻田由喜年か控訴人らかのいずれかであると認定し、損失の補償を定めて右土地の収用及び明渡を認めたものである。

3  しかしながら、本件各裁決には次のような違法がある。

(一) 本件事業認定自体に違法がある。

(二) 本件原審における被控訴人指定代理人糸山隆らは別件福岡地方裁判所平成三年(行ウ)第二号事業認定取消請求事件の指定代理人でもあるところ、右事件の被告である建設大臣と本件の被控訴人は利益が相反するから民法一〇八条の双方代理禁止に違反し、また、本件の指定代理人として福岡県職員が指定されているが、県の職員には被控訴人の指定代理人となる権限がないから、このような指定は違法であるなど、本件では訴訟代理人に関し違法がある。

(三) 本件各裁決を行った被控訴人の委員の一人である貫博喜は4福収裁第三号の土地所有者兼関係人である福岡県の代理人であって、代理人が委員として審理、裁決した。

(四) 4福収裁第二号の収用裁決申請及び明渡裁決申立ての際に起業者は土地調書に土地所有者・関係人を誤って記載しており、このような場合には被控訴人は右申請(申立て)を却下すべきであるのに、これをしなかった。

(五) 被控訴人は当該土地の所有権が誰に帰属するかについて判断する権限がないのに、本件各裁決においてこれを判断している。

(六) 被控訴人は選択的裁決はできないのに、本件各裁決において入会地、同町山野字白門六七番八の土地、御神木の権利取得をなしておらず、すべての権利取得をなしていない違法がある。

(七) 本件事業の対象土地の付近では昭和三〇年ころから立ち退きの話が出ては立ち消えとなることが繰り返されており、本件各裁決は収用の必要性及び緊急性がない。

(八) 起業者は河川法等により土地所有者及び占有者に通知する義務があるのに、本件ではこれを怠っているから、法二〇条二号にいう「起業者が当該事業を遂行する充分な意思と能力を有する者であること」に該当しない。

(九) 起業者は昭和五三年一一月二四日本件事業についての説明会の席上、地域住民に強制収用等の手続はしないと言明したのであるから、表示行為と内心の真意が異なる本件各裁決申請は民法九三条により無効であるのに、それにもかかわらずなされた本件各裁決は違法である。

(一〇) 本件各裁決には収用範囲、移転費用、土地代金、物件補償、残地補償、農業補償等の認定について違法がある。

(一一) 本件各裁決においては、権利取得各裁決自体が実現不能の行為を強制するものであり、明渡各裁決においても明渡期限が短く不能を強いるものである。

4  よって、控訴人らは本件各裁決の取消しを求める。

二  被控訴人の本案前の主張

本件各裁決中、明渡裁決の部分はすでに執行が終わっており、その部分の取消しについては訴えの利益がない。

三  請求原因に対する被控訴人の認否

請求原因1、2の事実は認め、同3はいずれも争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録並びに証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二  まず、本件各裁決中、各明渡裁決の部分について検討するに、<証拠略>によれば、控訴人らが負担する本件各明渡裁決にかかる土地の引渡し義務等について、建設大臣は福岡県知事に法一〇二条の二第二項に基づく代執行の請求をし、同知事は平成五年一月二〇日控訴人らに対する右代執行を実施し同日完了したことが認められ、右完了により控訴人らが負担していた土地の現実的支配を移転する義務はなくなったのであるから、控訴人らの本件各明渡裁決の取消しを求める部分の訴えの利益はなくなっており、同部分の訴えは却下を免れない。

三  次に、本件各裁決(権利取得裁決)について控訴人らが種々主張する(一)ないし(二)の違法について検討する。

1  控訴人らは(一)として、本件事業認定自体に違法があると主張するが、<証拠略>によれば、本件事業認定が当然無効とされるような重大かつ明白な瑕疵はないことが認められる上、事業認定そのものの違法性についてはその取消訴訟において主張・判断されるべきものと解されるから、本件訴訟において事業認定自体に違法があることを主張して本件各裁決の取消しを求めることはできないというべきである。

2  控訴人らは(二)として、本件訴訟代理人に関し違法があると主張するが、右違法は本件各裁決を取り消すべき事由とならないから主張自体失当である。

3  控訴人らは(三)として、福岡県の代理人である貫博喜が被控訴人の委員として4福収裁第三号の裁決を行ったと主張するが、同人が右裁決申請事件において福岡県の代理人となったことを認めるに足りる証拠はない。控訴人らの右主張は失当である。

4  控訴人らは(四)として、4福収裁第二号の収用申請及び明渡裁決申立ての際に起業者が土地調書に土地所有者・関係人を誤って記載していたから右申請(申立て)は却下されるべきであったと主張するが、収用委員会は土地調書の内容について争いがある場合も申請を却下することなく、裁決手続を開始して職権による調査等に基づいて裁決をすることができるのであって、被控訴人は控訴人らに主張の機会を与えて土地所有者・関係人を認定して右裁決をしたのであるから、なんら違法はない。

5  控訴人らは(五)として、被控訴人には当該土地の所有権が誰に帰属するかを判断する権限がないと主張するが、法四八条四項に照らし被控訴人は裁決をするに当たり土地所有者を認定することができるというべきであるから、控訴人らの右主張は採用できない。

6  控訴人らは(六)として、本件各裁決においてすべての権利取得をなしていない違法があると主張するが、被控訴人は法四八条一ないし三項により起業者等が申し立てた範囲内において権利取得裁決をするのであるから、すべての権利取得をなしていないからといって違法ということはできない。

7  控訴人らは(七)として、本件各裁決には収用の必要性及び緊急性がないと主張するが、<証拠略>によれば右収用の必要性及び緊急性が認められるというべく、本件事業の対象土地の付近で昭和三〇年ころから立ち退きの話が出ては立ち消えとなることが繰り返されていたからといって収用の必要性及び緊急性がないとはいえない。控訴人らの主張は理由がない。

8  控訴人らは(八)として、起業者は河川法等により土地所有者及び占有者に通知する義務があるのに、本件ではこれを怠っているから、法二〇条二号にいう「起業者が当該事業を遂行する充分な意思と能力を有する者であること」に該当しないと主張する。右主張の通知義務は、河川法二二条の二第二項で、河川管理者が他人の土地において一定の措置をとろうとする場合においてはあらかじめ当該土地の所有者及び占有者に通知してその意見を聴かなければならないと規定されていることを指すと思われるが、本件において起業者が右通知義務を怠っていたとしても直ちに法二〇条二号に該当しないとはいえないし、結局右は本件事業認定は事業認定の要件を欠いているから違法であるとの主張であると解すべきところ、前記のとおり本件訴訟においては事業認定の違法は主張することができないものである。

9  控訴人らは(九)として、表示行為と内心の真意が異なる本件各裁決申請は民法九三条により無効であると主張するが、起業者が従前本件事業について強制収用等の手続はしないと言明したことがあったとしても、それだけでは本件各裁決申請において表示されたものと内心の真意が異なるとはいえず、無効とはいえないことは明白である。控訴人らの右主張は採用できない。

10  控訴人らは(一〇)として、本件各裁決には収用範囲及び移転費用等の認定について違法があると主張するが、<証拠略>によれば本件各裁決における収用範囲の認定は相当であると認められるし、移転費用等の損失補償についての認定に対する不服は法一三三条所定の訴訟によるべきであって本件訴訟において主張することはできないものである。

11  控訴人らは(一一)として、本件各裁決においては、権利取得各裁決自体が実現不能の行為を強制するものであり、明渡各裁決においても明渡期限が短く不能を強いるものであると主張するが、前記のとおり明渡各裁決に関しては訴えの利益がないのであるから主張自体失当というべきであり、権利取得各裁決が実現不能の行為を強制するものとの主張事実はこれを認めるに足りる的確な証拠がない。

12  以上控訴人らの主張する違法事由はすべて理由がなく、その他各裁決を取り消すべき事由は見当たらないから、本件各裁決(権利取得裁決)の取消しを求める請求はいずれも棄却を免れないものである。

四  よって、右と同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鍋山健 西理 和田康則)

【参考】第一審(福岡地裁 平成四年(行ウ)第九号 平成五年一二月一四日判決)

主文

一 本件訴えのうち、明渡裁決の取消しを求める部分を却下する。

二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三 訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

1 被告が平成四年六月一二日付けでした4福収裁第二号、同三号及び同四号の各裁決(以下「本件各裁決」という。)を取り消す。

2 訴訟費用は、被告の負担とする。

二 本案前の答弁

1 主文第一項と同旨

2 訴訟費用は、原告らの負担とする。

三 本案の答弁

1 原告らの被告らに対する各請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二事案の概要と争点

一 事案の概要

原告らは、遠賀川右岸である福岡県嘉穂郡稲築町白門地区の土地について所有権を有し、あるいは所有権を有すると主張しているものであるが、訴外建設大臣が同地区内で施行中の河川改修工事につき平成二年一一月二八日付けで事業認定をし、起業者である建設大臣が、平成三年八月二六日、被告収用委員会に対し、収用裁決の申請及び明渡裁決の申立てをしたところ、平成四年六月一二日、本件各裁決がなされ、同裁決は、同月一九日原告らに送達されたが、右裁決には、別紙「原告らの主張」記載のとおりの違法があるとして、同裁決の取消しを求めている。

二 争点

本件各裁決の違法の有無。

原告らは、別紙「原告らの主張」のとおり、本件各裁決は違法であると主張し、被告は、本件明渡裁決は、すでに執行を終わり、原告らに訴えの利益はないとし、明渡し及び収用裁決には、裁決固有の瑕疵はなく、適法である旨を主張する。

第三当裁判所の判断

一 明渡裁決について

明渡裁決は、起業者に目的物の現実的支配を取得させる効果を有するものであり、同裁決により目的物たる土地の所有者又は占有者が負う義務の内容は、その土地の現実的支配を移転するという事実行為をすることのみであり、これらの行為が行われ、完了した場合には、同裁決はすでにその目的を達しており、もはや土地の所有者が負うべき義務は存在せず、したがって、目的物たる土地の明渡しが完了した場合には、明渡裁決の取消しを求める訴えの利益は消滅するものというべきである。

しかるところ、<証拠略>及び当裁判所に顕著な事実を総合すると、次の事実が認められる。

1 建設大臣は、本件各裁決にかかる損失補償金につき、明渡しの期限内である平成四年七月一日、不明裁決部分については権利者不明を、原告らを受領者とする部分については受領拒否を理由に、右明渡しにかかる土地の所在地を管轄する福岡法務局飯塚支局に供託し、支払った。

2 建設大臣は、原告らが土地の引渡し及び物件の移転義務を履行しないため、平成四年九月一六日福岡県知事に対し、土地収用法一〇二条の二第二項に基づき代執行の請求を行い、同知事は、原告らに対し行政代執行法三条所定の戒告及び代執行令書の送付を行い、平成五年一月二〇日、本件各明渡裁決にかかる土地の引渡し及び物件の移転の代執行を実施し、同日代執行は完了した。

右事実によれば、本件各明渡裁決は完了したものであり、既に本件各明渡裁決により原告らが負っていた土地の現実的支配を移転する義務は無く、原告らが右義務を強制されることもないというべきである。

したがって、原告らの本件各明渡裁決の取消しを求める部分の訴えの利益は消滅しており、同部分の訴えについてはこれを却下する。

二 収用裁決について

1 除斥事由該当委員の委員会関与の違法(土地収用法((以下「法」という。))六一条一項二号違反)について

法六一条一項二号は、起業者、土地所有者及び関係人の代理人は、委員として収用委員会の会議若しくは審理に加わり、又は議決をすることができないと規定するが、同項の趣旨は、収用委員会の委員が準司法的行政機関として公正中立の立場でその職務を執行しなければならないのに、起業者、土地所有者及び関係人の代理人が、委員として収用委員会の会議若しくは審理に加わり、又は議決をすることは職務の公正を疑わしめるおそれがあることから、委員として職務を執行することができないとしたのである。とすれば、起業者、土地所有者及び関係人の代理人とは、当該裁決申請事件につき、起業者、土地所有者及び関係人の代理人が当該裁決につき収用委員会の委員として、その職務を執行するときは、その職務の公正を害することになるので許されないが、当該裁決申請事件に関係のない事件に関して訴訟代理人であるなどの場合は、当該申請事件につき職務執行の公正を疑わしめるおそれはないというべきである。

しかるところ、原告らは、本件各裁決をした被告収用委員会委員である貫博喜は、福岡県の訴訟代理人であるとして、右除斥事由に該当するとするが、同人は、本件とは全く関係のない当庁平成二年(行ウ)第二四号損害賠償請求事件に関与したことは認められるものの、本件裁決申請事件の起業者、土地所有者及び関係人の代理人となったことはないのであるから、除斥事由にはあたらないというほかはない。

したがって、原告らの右主張には理由がない。

2 土地所有者の認定を誤った違法(法四七条違反)について

原告らは、本件各裁決申請書に添付されていた土地調書に原告らの氏名が記載されていなかったことから、かかる土地所有者、関係人を誤った土地調書は法三六条に違反し、また本件各裁決申請も法四七条に違反すると主張し、収用委員会は、土地調書の内容につき争いのある場合には、申請を却下することなく、裁決手続を開始し、職権による調査等により、裁決することができるものである。

しかしながら、本件裁決のうち二号裁決は、原告らに主張の機会を与えたうえで、裁決書記載の所有者、関係人を認定したのであるから、被告収用委員会が本件申請を却下しなかったことにつき違法はない。

3 事実認定の違法について

原告らは、本件各裁決取消事件において、事業認定に違法があることを理由として、裁決の取消しを主張するが、事業認定についての適法、違法は、当庁平成三年(行ウ)第二号事業認定取消請求事件につき、主張の機会を与えられており、また、平成五年四月二〇日原告らの請求が棄却され、控訴審に係属中であることに鑑みると、原告らの主張する事業認定についての違法につき、本件訴えでさらにこれを主張する利益を認めることはできない。

4 原告らは、右のほか、移転費用、土地代金、物件補償、残地補償農業補償等について違法を主張するが、法一三三条が「収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴えは、裁決書の正本の送達を受けた日から三月以内に提起しなければならない。」と規定し、裁決取消訴訟ではなく、当事者間で別訴をもって解決をすることを規定している趣旨に鑑みると、本件取消訴訟において、右事由をもって取消事由とすることはできない。

したがって、原告らの損失補償に関する不服を理由とする請求は、いずれも理由がない。

5 右のほか、本件裁決を取り消すに足る事由は、一見記録を検討しても無く、右判断を覆すに足る証拠はない。

三 まとめ

よって、原告らの訴えのうち、明渡裁決の取消しを求める部分の訴えは却下し、収用裁決の取消しを求める部分の訴えは理由がないから棄却することとし、訴訟費用につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 牧弘二 高橋譲 尾崎智子)

別  紙

原告らの主張

一 本件の被告指定代理人糸山隆らは、平成三年(行ウ)第二号事業認定取消請求事件の指定代理人でもあるところ、本件の被告収用委員会と、平成三年(行ウ)第二号事件の被告である建設大臣は利益相反するから、結果的に民法一〇八条の双方代理禁止に違反する。

二 本件事件の指定代理人として福岡県職員が指定されているが、職員は被告収用委員会の指定代理人となる権限がない。かかる指定は違法である。

三 本件各裁決の各判断を行った被告収用委員会委員の一人である貫博喜は、訴外福岡県知事奥田八二の代理人であって、本件各裁決においても利害関係人として同人も表示されており、一方の利害関係人と密接に関係する代理人が委員として、審理、裁決したのは、違法である。

四 起業者は、本件収用及び明渡裁決申請の際に、土地所有者関係人を誤って記載しており、かかる場合には被告収用委員会は、右申請を却下すべき義務があるにもかかわらず、これを却下しなかったのは、違法である。

五 本件各裁決は、土地所有権が誰に帰属するかにつきその判断をする権限がないのにもかかわらず、判断を行っており、違法である。

六 本件各裁決について、総ての権利収用をなしていない違法が存在する。入会地、白門六七番地の八、御神木の権利収用がなされていないのは違法である。

七 本件起業地付近は、昭和三〇年ころから立退きの話が出ては立ち消えとなり、これを繰り返してきており、緊急性が欠落しているのに、各裁決をしたのは違法である。

八 本件各裁決は、起業者が被告収用委員会に収用・明渡裁決を申請したとき土地所有者関係人を誤って記載していたのであるから、同委員会は右申請を却下すべきであるにもかかわらず、これを怠ったことは違法である。

九 起業者は、河川法・測量法により土地所有者及び占有者に対し通知を義務付けられているにもかかわらず、これを怠った起業者は、土地収用法二〇条二号にいう「起業者が当該事業を遂行するに充分な意思と能力を有する者であること」に違反する。

一〇 起業者の表示行為と内心の真意が異なる本件事業認定は、民法九三条により無効である。すなわち、起業者は、昭和五三年一一月二四日稲築町鴨生にあった青年集会場における本件事業についての合同説明会の席上、地域住民に強制収用等はしないと言明したから、その意思表示は無効である。それにもかかわらず、原告らが不利益を被る本件各裁決は違法である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例